授乳中におけるアロマの安全性について

産婦人科で産後の方向けにアロマトリートメントをしている中で、
たまにいただくご質問の中に「授乳中のアロマについて」があります。
産後、アロマを安全に楽しむためにどうすればよいか、まとめてみました。

母乳への影響は?

乳児は代謝機能と腎臓の排泄機能が発達しておらず、有害物質を体内で処理することが十分できません。
そのため妊娠中と同じように、授乳中も母体に入る食べ物や医薬品などに気をつける必要があります。

母体が摂取したものが、妊娠中の胎盤通過や母乳への移行に至るためにはいくつかの条件があります。

  • タンパク質結合
  • 脂質溶解性
  • イオン化
  • 分子の大きさ

これらの状態によって決定されると言われています。

ほぼすべての医薬品はある程度の範囲で母乳に紛れ込みます。(Atkinson et al 1988) また、母親の食事で摂取された揮発性化合物は、母乳の風味を変えてしまうことで母乳育児に積極的な影響を及ぼします。(Mennella & Beauchamp 1993)
授乳中、乳児の安全のために考察された、母親が摂取する医薬品の最大安全量は、恣意的に10%と決められてきました。しかしながら、母親がとりわけ毒性の強い、あるいは重度の有害作用の可能性のある医薬品を経口摂取する場合は、母乳育児は避けるべきだと警告されるものです。(Ilett et ai 1997) ちなみに、大抵の精油成分の母乳曝露量は、母親の摂取用量のおよそ1%以下です。(Hausner et al 2008)

精油の安全性ガイド 第2版 ロバート・ティスランド/ロドニー・ヤング著

微量ではあっても、母乳への移行は認められると言えますが、
すべての精油において危険性の有無を示すエビデンスがあるわけではないのが現状です。

妊娠期・授乳期に避けるべき精油リスト(抜粋)

             精 油有毒成分
アニス(E)–アネトール
ウィンターグリーンサリチル酸メチル
オレガノ特定なし
キャロットシード特定なし
サイプレス(ブルー)β–オイデスモール
パセリアピオール
フェンネル(E)–アネトール
ホーリーフ(カンファーCT)カンファー
マートル(アニシード)(E)–アネトール
ミルラβ–エレメン+フラノジエン
ヤロウ(グリーン)酢酸サビニル
ラベンダー(スパニッシュ)カンファー
精油の安全性ガイド 第2版 ロバート・ティスランド/ロドニー・ヤング著 より

妊娠期・授乳期を通じて避けるべき精油について、上記の表の通り抜粋してみました。
他にもたくさん挙げられていたのですが、私も聞いたことのないような一般的でないものも多数あったので、
比較的一般に流通している名前を集めてみました。12個ありますね!

精油名のかっこ書きは細かな種類を表し、前の名前が同じだけでは別のものとみなします。
サイプレスやラベンダーはよく使用されますが、かっこ書きの種類は避けるようにしてくださいね。

別名がたくさんあるので混乱するかもしれません。迷ったら必ず「学名」でチェックしましょう。
例えば → ブルーサイプレス:Callitris intratropica
      スパニッシュラベンダー:Lavandula stoechas

上記リストの精油は、量に関わらず、妊娠中・授乳中の方は使用を避けましょう。

授乳期における精油の毒性(抜粋)

精 油有毒成分最大経皮投与量*
タイム(レモン)シトラール3.7%
ティートリー(レモンセンテッド)シトラール0.8%
バジル(レモン)シトラール1.4%
フランキンセンス(エリトリア)酢酸オクチル1.7%
バーベナ(レモン)シトラール0.9%
マートルシトラール0.7%
メイチャンシトラール0.8%
メリッサシトラール0.9%
レモングラスシトラール0.7%
レモンバーム(オーストラリアン)シトラール3.4%
精油の安全性ガイド 第2版 ロバート・ティスランド/ロドニー・ヤング著 より
*オイルや乳液30mlの全身塗布で単回1日投与量の場合で算出

授乳期における精油の毒性について抜粋してみました。
こちらはわかりやすくて、ほぼシトラールという成分になっています。
レモン様の香りなんですが、レモングラスなどは一般的かと思います。
虫除けアロマ、とかでよく紹介されていますね。

いずれも最大投与量が0.7%からとなっていますので、
セラピストさんのアロマを受ける場合で何種類かの精油をブレンドされるなら、
妊娠中や産後の方には1%程度の濃度で施術されるはずなので、
それほど気にしなくても大丈夫だと思います。

まあ、あえてこのリストの精油を選ばなくてもいいかもしれません。
授乳期に精油を使う時は、最大投与量以下での使用にとどめましょう。

精油を安全に使用するために

生殖器系の毒性に関しては、他の部位に関するものと比べてエビデンスが少ないそうです。

動物実験から推定して運用するとしても、人と動物では異なる場合もあり得ます。

疑わしきは罰せずの反対で、動物実験で少しでもマイナスのデータが出ると使用制限または禁止となります。
経年とともに新しいデータが出る場合も多くありますので、きちんと学んでいるセラピストさんを選ぶことも必要です。

大切なのは、知ること。

避けるべき精油名を覚えていなくても、高濃度を避けることが安全な使用に繋がります。
一般的に、妊娠・授乳期においては、全身塗布には1%濃度、局所使用には4%濃度が適切と言われています。

精油濃度1%とは、小さじ1のオイルに1滴の精油を加えた程度です。
例えば、精油濃度4%だったら、小さじ1に4滴ですね!

そして、避ける精油を覚えるより、自分が気に入る安全な精油を知ることの方が簡単だと思います。

もし、使用制限のある精油を知らずに使ってしまったとしても、
使えば必ず毒性が表れる、とは限りません。
逆に、使用制限のないものでも、害が表れることもあり得るのです。

気にし出すときりがありませんが、精油を使うリスク、メリットのバランスで決めるものだと思います。

不安が大きいなら控える。
精油の香りですごく元気をもらえる。

自分の気持ちと、体とアロマについて知った上で、選んでもらいたいなと思います。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。


音声でも話しています。こちらからどうぞ。

https://stand.fm/episodes/631166602038e2d9299987b0