介護と仕事の両立:「高齢者の親」だけではない現代のケア実態
「社員から突然、家族の介護を理由に退職したいと相談された……」
人事労務の現場や経営者の皆様から、こうした切実な声を耳にする機会が増えています。
「介護」という言葉を聞くと、どうしても高齢の親や祖父母を思い浮かべがちです。しかし、現代の介護やケアの現実は高齢者だけではありません。ライフスタイルの多様化や医療・社会環境の変化に伴い、私たちが直面する課題はより複雑で幅広いものへと変化しています。
介護は育児と違い、突然始まることも多いので、前もって体制を整備することがとても重要です。
今回は、企業の人事・労務体制において見落としがちな大切な視点と、いざという時に社員を孤立させないための正しい制度の活用法について解説します。

目次
子どもや孫、医療ケア児、そして精神疾患のケアも対象になり得る「現代のケア」
まずは、法律上の「介護」が指す対象範囲の広さと、現代ならではの背景を正しく認識することが出発点となります。
対象家族の範囲 → 配偶者・父母・子・祖父母・兄弟姉妹・「孫」も対象
法律上の対象家族には、親だけでなく祖父母や兄弟姉妹、さらには「孫」も含まれています。
医療ケア児の育児と介護 → 日常的な医療ケアが必要なお子さんの存在
人工呼吸器の管理や痰の吸引など、日常的に医療ケアを必要とする子どもを育てる社員も、深刻な時間的制約を抱えています。
兄弟姉妹のサポートなど → 身近な家族を支えるバックグラウンド
作家のよしもとばななさんがnoteで綴ったご家族に関するエピソードが話題となったように、親の介護だけでなく、きょうだいなどの身近な家族のサポートを人生の中に抱えながら働いている人も少なくありません。
精神疾患や発達障害のサポート → 心のケアを伴う家族の支援
近年、精神疾患の広がりや発達障害への理解が進むなか、家族のメンタル面のケアや通院・見守りを担いながら、プレッシャーを抱えて働き続ける社員の存在も決して見過ごせない現代の大きな課題です。
「介護=高齢者」という固定観念のままでは、現役世代の深刻な離職リスクを見落としてしまうおそれがあります。
介護休業は「自分で背負うもの」ではなく「体制を整えるための期間」
介護やケアに直面した社員が陥りがちな最大の罠が、「自分が仕事を犠牲にして、すべて1人で背負わなければならない」という思い込みです。
誤解 →すべてを自分の手で、仕事を辞めて面倒を見なければならない
本来の姿 → プロの手を借りて、仕事とケアを続けられる体制を整えるための準備期間
介護休業は、社員が介護を1人でするためのものではありません。
ケアの担い手としてすべてを背負い込むのではなく、ケアマネジャーや専門機関との調整、外部サービスの確保など、「仕事と両立できる基盤をつくるための期間」として存在しています。
自分1人で抱え込ませないよう、企業側が早い段階で正しい情報を手渡し、適切な支援へ繋げることが何よりも重要です。
まずは「地域包括支援センター」など専門窓口へ相談する
社員から介護や家族のケアに関する不安を打ち明けられた際、企業側の窓口や人事担当者がすべてを抱え込む必要はありません。
社内だけで抱え込まない → 地域の専門窓口へのスムーズな橋渡し
最初の案内先(高齢者の場合) → お住まいの地域の「地域包括支援センター」
保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどの専門職が常駐する総合相談窓口です。福祉サービスの調整など「介護の羅針盤」となってくれます。
精神疾患やその他の課題の場合 → 保健所や精神保健福祉センターなど
疾患の種類や家族の状況に応じて、地域の保健センターや専門の相談窓口を活用する道があります。
「まずは専門の窓口に一本電話を入れて、プロに話を聴いてもらいましょう」と背中を押してあげるだけで、社員の精神的な負担は大きく軽くなります。

正しく知っておきたい「介護休業」と「介護休暇」のルール
いざという時に社員が制度をフル活用できるよう、経営者や人事担当者は基本ルールを押さえておく必要があります。あわせて、法改正により企業に義務付けられている手続きについても確認しておきましょう。
介護休業(まとまった休みを取りたい時)
取得日数 → 対象家族1人につき、通算93日まで取得可能
分割取得 → 上限3回まで分割して取得できる
活用のポイント → 「仕事を辞めずに、プロの手や外部サービスを導入して生活の基盤を整えるための期間」として活用します。
介護休暇(日々の通院や手続きに使いたい時)
取得日数 → 対象家族が1人なら「年5日まで」、2人以上なら「年10日まで」
取得単位 → 「時間単位」での取得が可能
活用のポイント → 「急な通院付き添いや精神的ケアのサポートのために午前中だけ休む」「手続きのために2時間だけ中抜けする」といった柔軟な使い方ができます。
子の看護等休暇との使い分け
状況に応じて介護休暇との使い分けや組み合わせが可能であり、子育て世代特有のリスクと介護リスクが重なった際にも柔軟に対応できる制度です。
子どもの年齢が小学校3年生修了までの場合、病気やケガの世話、あるいは感染症に伴う学級閉鎖などの際には「子の看護休暇」の対象となります。
企業に義務付けられている「情報提供」と「個別周知」
40歳等における情報提供 → 介護に直面する可能性が高まる年齢(40歳にまる前)の社員に対し、仕事と介護の両立支援制度や相談窓口に関する情報をあらかじめ周知することが義務付けられています。
介護に直面した際の個別周知・意向確認 → 社員から介護の申出や相談があった際、または介護休業等の対象となる事情を把握した際に、企業側から個別に制度の周知と取得意向の確認を行うことが義務付けられています。
まとめ:環境の整備が、企業の未来を守る
育児・介護休業法の改正等により、企業側には仕事と介護の両立支援に関する個別の周知や意向確認、相談体制の整備などが求められています。
制度という「インフラ」が存在していても、それが現場で使われなければ意味がありません。
「子どもや孫、医療ケア児、精神疾患のケアなども対象になり得る」ということ
「ケアは1人で抱え込むものではなく、プロと体制を整えるためのもの」ということ
こうした共通認識を社内に広げ、法に基づいた適切な情報提供や個別周知を行うことが、大切な社員の離職を防ぎ、持続可能な組織をつくる第一歩となります。介護休業で対象になり得る助成金もあります。
介護やケアの課題は、ある日突然、誰の身にも起こり得るものです。だからこそ、従業員が一人で抱え込んでしまう前に、会社が正しい知識を持ち、適切な情報と制度をそっと差し出せるかどうかが、組織の未来を大きく左右します。
「退職」という選択肢を選ぶ前に、まずは社内の窓口や専門機関への一歩を踏み出せる環境づくりを。自社の体制整備や、個別のご相談・法改正への対応などでお困りの際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

